八五郎出世というのは、またの題名を「妾馬」とも言います。
裏長屋に住んでいた、八五郎という男。
腕はいい大工だが性格はガサツ。
ところが、赤井御門守様の身の回りの世話をするために
屋敷に上がっていた妹のおつるが殿様の目にとまり妾となった。
そしてやがて懐妊して男子(お世取り)が生まれた。
おつるは出世しておつるの方となった。
このおつるが、兄である八五郎に会いたいとお殿様に頼んだので、
八五郎が屋敷に招かれたのだが、
ガザツな八五郎は丁寧言葉を使わないといけないと言われて出かけた。
気を使ってやたら「お」と「奉る」を使ってしゃべていたが、
そのうち殿様に無礼講だと言われると、
今度は一変してあぐらをかいて、殿様を相手に友達のような調子でしゃべり出した八五郎。周囲はハラハラするが、殿様は面白がる。
やがて、妹のおつると対面しておふくろさんの話しをする。
この時二人はほろり涙を流しあう。
その様子を見ていた赤井御門の守、
いたく八五郎の話が気に入り士分に取り立てる。
こんな噺。
だから「八五郎出世」
妾馬と言われるのは、侍になった後、
殿様から使者を申しつかって馬に乗って出かけるが、
馬術なんか知らない八五郎、こわごわ馬に乗ったが、
なんの拍子か、馬がおどろいて走り出した。
八五郎が必死で馬につかまっていると、
向こうから屋敷の者が来て「いずれへ おいでなさるか?」
八五郎、「前にまわって馬に聞いてくれ」
どちらかというと、兄が士分に取り立てられるところで終わる事が多い噺ですね。
妹が妾になって兄が出世するってんだから、
江戸時代の事だけど、今だと「どうなんだろうね」って事になる。
おつる(妹)は、元々殿様の身の回りの世話をしていて殿様の「手が付いた」ってわけでね。家族としてはトンでもねえ…とはならないんだね。
この噺、庶民と侍との身分の違いを殿様と八五郎の会話で笑わせたり、
おつると八五郎の会話では、折角孫が生まれたのに会う事ができない2人の母親の言葉を出してじーんとさせたり、いろいろ工夫のある噺です。
この題名にどうして志の輔さんの名前を出したかと言うと、
今回、旅行で乗ったANAの機内サービスで、
志の輔師匠が「新八五郎出世」と題して高座に掛けていたのを聞いたのね。
ここで志の輔さん、
なんと八五郎を侍にしなかった。出世の意欲がない男と解釈する。したがって八五郎は「出世」しない。後半の「馬」のエピソードもない。これって勇気の居る改題ですよね。
さすが談志家元のお弟子さん。
つまり、終盤で殿様が八五郎を気に入り、
自ら士分に取り立てようと何回もいうのを、八五郎が頑として断る。
しまいに、おつるが「兄はガサツですが一本芯の通った男です。言う事を聞いてあげてください」と頼むと、殿様あっさり「ではさきほどの話は無しじゃ」と撤回する。
すると八五郎が、どうしてそう簡単に話を引っ込めるんだ。
それが面白くないと文句を言うと、お前の妹はおつるだから
「これが本当の『つるの一声』じゃ」とサゲる。
なるほど。
ガサツだが、愛すべき親孝行の兄を中心にした人情噺にしたわけです。
個人的には、2年半も家賃不払いの八五郎を長屋から追い出すこともせずに、羽織袴まで用意して気持ちよく屋敷に送り出す大家は人格者だなあと感心したしだいです。
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